島本和彦「炎の転校生」～熱血伝説の序章

月刊サンデーＧＸで連載していた「新・吼えろペン」をすでに終了している島本和彦先生ですが、出世作といえばやはり週刊少年サンデーで８０年代に連載した「炎の転校生」でしょう。
当時のサンデーといえば「うる星やつら」「タッチ」などのラブコメ真っ盛りの頃で、突如現れた熱血島本ギャグは新鮮な驚きでした。
当時、「うる星やつら」本編及び関連の記事をスクラップしていた自分としては、当然ながら「炎の転校生」も全話スクラップしており、今回はちょっとサンデーに掲載されたものについて話したいと思います。

【連載開始時のコメント】
◎やったぁ～～！！ついに待望の「転校生もの」を描くことになりました！！ルンルン♪♪…エッ、デビュー作に似てるって！？ハッハッハッハッハ！ヘッ、進歩がない！？ハッハッハッハッハッハッハッハ！いやぁ～～、まんがってホントにいいもんですねェ…。

８０年代前半のサンデーといえばカラーは２色のみで、新連載とはいえ４色にはなっていません。
これは当時看板作品の「うる星やつら」も同様で、４色カラーが拝めるのは表紙のみでした。
（サンデーの昔の作品が、他誌の様にカラー収録の完全版とかが出ないのも、４色カラー原稿そのものが存在せず、あまり美味しくない事が原因だったりするのかも？）
そんな数少ない「炎の転校生」が表紙を飾ったサンデーはこんな感じでした。


内側のところをテープで止めているのでちょっと汚れが見えます（すみません）。
２年間連載した訳ですが、表紙を飾ったのはあまり多くありません。
「うる星やつら」「タッチ」などは結構あったんですが…。

「炎の転校生」とはどういう作品なのか？
今さら詳しい説明もいらない気もしますが、簡単に言うと…。
主人公・滝沢昇は“嵐を呼ぶ男”の異名を持つ高校１年生。
親の都合で転校を繰り返すが、行く先々で思いもしない戦いに巻き込まれる。
必殺技の滝沢キック・滝沢国電パンチなどを繰り出し、大いなる野望に立ち向かうのだ！！

とにかく、熱血＝ギャグというのが新鮮でした。
ボクシングの試合なのに、“正々堂々”キックで決着するという凄まじさ。
このシーンは当時思い切り吹きましたよ（笑）。
ギャグのインパクトに対して、さらに加速する熱血感。
弱肉学園編から大陸学園編に至るあたりは、毎週が楽しみで仕方ありませんでした。

とまあ、「今さら知ってるよ」とか言われそうなので、作品の解説みたいな事はそれくらいにして、ここでは雑誌掲載分を持っているならではの話をしようと思います。

滝沢ＶＳ城之内のボクシングの看板。
この城之内の体の色が異常に赤い！
実はそれがギャグの伏線になってました。

看板の様に赤くない事に文句を言う観衆。
当時ＣＭでよく名前を聞くようになった「ＪＡＲＯ」ですが、「ＪＡＲＯに訴える」というギャグだったのに…コミックスでは当然ながら真っ黒ボディ。
当時赤かったんだろうと想像するしかない訳です。
こういった、カラーならではネタというのは、他の作家さんもよくやるのですが、大抵の場合「当時はカラーでした」という一文がつくのが精一杯で、わざわざカラーのまま収録されるなんて事は滅多にありません。
それだけに、将来カラー収録の完全版が出て欲しいと思う作品は色々ある訳ですが…「炎の転校生」の場合はどうなのでしょうか？

コミックス１巻にあるライダーネタ。
当時はこの様に１／４に広告が入ってました。
それを島本先生は逆に利用して、アイキャッチにしてしまった！
これはもう目からウロコで、当時大爆笑したのです。

当然ながら、ＣＭはカットされオリジナルの広告が入りました。

実は今の少年誌では、こういう作品内広告はなくなっているんですよね。
少女マンガとか見ると未だにある様なのですが、ニーズがあるんでしょうか？
よく分からないんですが…。
当時、自分が思っていたのは、「作品の広告などはコミックスになると修正されるが、基本的に作品は雑誌に発表されたものが最終形態」という事でした。
実を言うと、コミックスになって本編が修正されるなんて思ってもいなかった頃でして、自分が作品によってはコミックスで直されるという事を初めて知ったのも「炎の転校生」だったのです。

ゆかりの発言にショックを受ける城之内。
ラストのコマを反転させて、その衝撃を表してします。

ところが！

コミックスになったら白くなってしまい、「アレ？どうしたんだコレ？」と当時は思ったのです。
島本先生自身、雑誌に載ったのを見て「あまりよろしくない」と感じて直したのかな、と思ったのですが、かといってこれの方がいいかと言うとそうでもない感じがしました。
そのせいなのでしょうか？
次に出たワイド版コミックス全６巻ではまた反転する事に！
やっぱりこっちの方が良かったとか、思ったのでしょうか？
まさかとは思いますが、単に印刷ミスだったりして…（笑）。

中盤の山場である大陸学園出現シーン。
灯学園が文字通りつぶされてしまうシーンなのですが、逃げる滝沢＆ゆかりちゃんに注目。

コミックスではシリアスな表情に変更されました。
こういったシリアスなシーンにギャグ顔はそぐわないと感じたのでしょうか？
とにかくこういったコミックスでの修正が大小あちこちにあるんですよ。
それまで、コミックスを買えばいいと思っていた自分が「コミックスと掲載雑誌両方保存しなければ」と考えを改める事になってしまうのでした（笑）。

さて、この大陸学園はとにかくインパクトが凄かった。
何せ理屈がスゴイ。
「建っている地盤がたえず脈動している土地。大自然の力によるものです。この世にはまだ私達の知らない謎が沢山あります。」という理由で、“歩く学園”は次々と学校をつぶしていく！！
これはもう理屈抜きで興奮するしかないですよ！！
この展開に至る前の弱肉学園５ＶＳ５の激突もテンションが高く、この頃が一番好きでしたね。

修正されたシーンのなかで、これは１８０度変更されたもの。
終盤、ジャッカル高校の生徒になった滝沢の前に弱肉学園の友人たちが出現！
戦わないといけなくなる訳ですが、城之内のこの発言は友人同士という関係を壊してしまうものでした。

それがコミックスになったら、爽やか少年に！！
この戦いの後に和解する事を考えれば正しいのですが、当時ビックリした変更シーンでした。

変更とは別の意味で面白かったのがブラック滝沢登場シーンです。
「災の転校生」登場の回はカラーだったのですが、表紙も「炎の転校生」だったのです。

その表紙では、“幻の”ブラック滝沢登場シーンが！！
初めはこっちを使う事を考えていたのか？
どっちにするか迷って２つ描いたが、せっかくなので表紙に使ったという事なのでしょうか？
同じ号で２種類の登場シーンが見られた訳で、実に珍しい状況でした。

結局、「炎の転校生」は全１２巻で完結しましたが、後日読みきりが発表され、それは文庫の方に収録されている様です。
連載中はイメージアルバムが出たりしましたが、ウワサのアニメ化には至らず、後日ＯＶＡ化されるのですが、ＬＤのみの販売という珍しい形態での発売でした。
当時はＬＤを買いに遠出したんだよね…（笑）。
まあ、とにかく懐かしい思い出です。

さて、次の連載は「燃えるＶ」になる訳ですが、この作品は「ほのてん」以上に変更の多い作品です。
ラストの変更とか、とにかく当時は目を疑ったのですが、この度文庫版で連載時のバージョンが発売されました。
気になる方は見てみるのも一興でしょう。

という事で、気が向いたらまた何か古い話をしたいと思います。

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