松本めぐむ（現：尾瀬あきら）が描くＳＦ巨編「とべ！人類」

名作夏子の酒や、最近では蔵人など、人情派の作風で知られるマンガ家・尾瀬あきら。
そんな氏の作品にもＳＦ作品があるのはご存知でしょうか？

少年サンデーで連載された「リュウ」。
確かにそれもそんな作品のひとつ。
ですが、さらに昔の作品で、今の氏の作風からは考えにくい宇宙を舞台にしたＳＦ巨編があるのです。

それが「とべ!人類」です。

尾瀬あきら氏は１９７８年に松本めぐむというペンネームで、毎日中学生新聞にこの作品を発表しました。
幻だったこの作品にスポットライトがあたったのが１９８４年の少年ビッグコミック１月増刊号で、再構成の後、４月増刊号との２回で２００ページ超の力作として再び発表されたのです。

当時の少年ビッグコミック（現：ヤングサンデー）というと「みゆき」「エリア８８」が全盛の時代で、氏も「初恋スキャンダル」を連載していた頃です。

そんな時代に発表された「とべ!人類」を少し紹介してみます。


中学２年生の少年・岩崎卓は、卓球部の主将に選ばれごきげんだった。
そんなある日の帰宅途中、謎の男たちに薬をかがされ拉致されてしまう。
気がつくとそこには同じような少年・少女８人が座席に座らされていた。
だが、そんな中でひとり動かない少女がいた。

パニックになる少年少女たち。
ドアを開け、部屋の外へ――。

目前に広がる巨大な月。
すなわち――。

いつの間にか宇宙船に乗せられていたのだ。
しかも、目前に見える地球の色がみるみる変化して行く。
核戦争が起きたのか？

宇宙船を調べて見ると、食料やら衣服やら万全の用意が出来ている事が分かった。
そして、操縦席を発見。
するとそこの壁には――。

何かいわくありげな文字が描かれていた。

この宇宙船の名前はホモ・サピエンス号。
２００年飛び続ける光子力推進宇宙船だ。
理由は不明だが、少年たちはノアの箱舟に選ばれたらしい…。

加速を始める宇宙船に動揺する少年たち。
それをたしなめたのは、行動派の尾形だった。

宇宙船で軽い事故が発生した際、少女・美加が重傷を負ってしまう。
彼女を救う為に、手術を始める少年たち！！

尾形の勇気ある行動に、みんなは彼をリーダーと認める。

火星を過ぎた頃、もうひとつの宇宙船が姿を見せる。
まだ生きている人間がいるんだ！
何とか接触しようと、宇宙服を着て近寄ったのだが…。

何と、全員死亡していたのだ…。

そこで得た資料により人類が戦争で滅んだ事や船の目的地が分かった。

この船は隕石群にぶつかってしまったらしい…。

みんなで手分けしながら、宇宙船の管理を始める少年たちだったが、壊れた部品の交換の為、尾形とかおりのふたりが高いところに登る。
何とか完了した直後、気の抜けたかおりが転落！
すかさず尾形も飛んだ！！

かおりを守って、尾形は頭から落ちてしまう。

かおりに別れのキスをもらい、尾形は逝ってしまうのだった…。

卓は新たなリーダーとして、船外活動も開始。
みんなも責任を持った行動をするようになっていく…。

そしていよいよ木星が見えてきた。

木星を見ながら、美加とデートを楽しむ卓だったが、何と船が木星の重力に引っ張られている事に気がつく。

一番頭のいい誠は船外に出て、直接ジェット噴射を修理するものの…。

哀れ、宇宙の藻屑に…。

そんな中、手術をした美加も弱っていく…。

主人公・卓との夢を見つつ…。

美加死亡…。

そして襲い来る隕石群！
正は壁に空いた穴を防ぐ為、自ら犠牲に！

だがこれは卓の素早い判断で、何とか正は救出されるのだった。
もはや世界でたった４人の仲間なのだ。
もうこれ以上失う訳にはいかないのだ。

これから子孫たちにバトンタッチしながら、２００年の旅を続けて行くのだ。
遥かなる、カノウプス系第３惑星Ｐ３を目指して…。

と、ここで話は完結しています。
これを読んだ当時、中々スゴイ話を描く作家だなあと思いました。

最近すっかりこういう話はご無沙汰ですが、出来ればまたこういう話を読んでみたい気がしますね。

これの続編であるとべ！人類Ⅱもまたすごい話なのですが、またの機会に紹介したいと思います。

ヤフー掲示板でのかつての自分の投稿記事⇒とべ！人類Ⅰ・Ⅱ